「建設会社の合併や分割」もしくは「建設業部門の事業譲渡」を検討している人は、いらっしゃいませんか?合併や分割や事業譲渡と聞くと、会社法の手続きを考えがちですが、承継元の建設業許可を引き継ぐには、建設業法上の手続きである「認可」を受けなければなりません。
この認可制度は、比較的新しく始まった制度であるため、手続きの専門家である行政書士の先生でも、経験者が少ないのが現状です。そのため、事業承継や認可申請について、「生きた情報」が乏しく、制度の中身を理解できずに困ってしまっている人がいるかもしれません。
そこで、本インタビューでは、「大臣許可業者の分割」と「都知事許可業者の合併」について、建設会社を支援した経験のある行政書士法人スマートサイドの代表である横内賢郎先生に、認可制度の概要や手続きの注意点について、詳しくお話を聞かせて頂きます。
建設業許可を引き継ぐには?
それでは横内先生、本日は、建設会社の合併や分割や事業譲渡について、詳しくお話を聞かせてください。
はい。本日もよろしくお願いします。
建設会社の合併、分割、事業譲渡などの、いわゆる事業承継については、後継者不足や技術者の高齢化もあって、国として喫緊の課題でもあると思います。社長の高齢化や技術者不足により、建設業の廃業がこれ以上増えると、建設工事の担い手がいなくなってしまうという事態になりかねません。そういった意味では、私たち行政書士も、建設会社の事業承継には、積極的に関わっていく必要があるのではないかと思っています。

まずは、「認可」について、お話いただけますか?
はい。認可についてですね。承知しました。
そもそも「認可」という制度は、令和2年の建設業法改正によって誕生した制度です。従来は、建設会社の合併や分割や事業譲渡があっても、建設業許可の番号や建設業許可業者たる地位を引き継ぐことはできませんでした。「建設業許可の引継ぎや承継の制度」が存在していなかったのです。そのため、建設業許可を持っている会社をM&Aしても、建設業許可を持っている会社から建設業部門を譲り受けたとしても、建設業許可自体を譲り受けることはできず、新しい会社で建設業許可を新規で取り直さなければなりませんでした。
しかし、せっかく建設業許可を持っている会社を買収したのに、「新たに新規で許可を取り直し」となると、建設業許可を持っている会社をM&Aによって買収した意味や、事業を譲り受けた意味が、乏しくなってしまいます。なぜなら、新規許可を申請しても、許可が下りるまで1か月程度(大臣許可の場合には3か月程度)かかるわけで、その間、500万円以上の工事を受注できなくなってしまいます。
せっかく建設会社を買収・合併したのに、1か月以上にわたって、500万円以上の工事を受注できないというのは、とても不便ですね。
おっしゃる通り、建設会社を買収した側からすると、今すぐにでも工事を受注したいのに、それができないわけですから、とても不便だったと思います。そのような不便を解消するために認可制度が設けられ、事業承継の前に認可を受けることによって、建設業許可の番号や建設業許可会社としての地位を承継することができるようになったのです。これにより、あらたに建設業許可を取得しなければならないという不便や、許可を取得するまで500万円以上の工事を受注することができないという不便は解消されたことになります。
認可の手続きで気を付けるポイントとしては、事業承継の日、つまり合併や分割や事業譲渡の日よりも前に、認可を受けておく必要があるという点です。
「事業承継よりも前に…」ですか?
はい。事業承継よりも前に、認可を受けておくことが必要です。認可を受けるには認可申請が必要ですので、必然的に認可申請も事業譲渡よりも前に申請しておかなければならないことになります。この点は、絶対に押さえておかなければなりません。
たとえば、「10月1日に、建設業許可を持っていないA社が、建設業許可を持っているB社を合併します」という場合。A社が吸収合併存続会社で、B社は吸収合併消滅会社です。A社が、消滅するB社の建設業許可を承継するには、A社は、10月1日よりも前に認可申請をして、許可行政庁から認可を受けていなければなりません。10月1日が合併日なのに、10月1日以降になって、「B社の建設業許可を引き継ぎたいです」と言っても遅いのです。その場合は、手遅れですので、A社はB社の建設業許可を承継することはできません。A社が建設業許可を取得するには、新規に申請をし、あらたに許可を取得する必要があるのです。この場合、A社はB社の建設業許可番号や建設業許可業者たる地位を引き継ぐことができなくなってしまいます。
会社法上の手続きである「合併」「分割」「事業譲渡」とは別に、建設業法上の手続きである「認可申請」をしていないと、許可を承継することはできないということですね。
とてもよく理解できていますね。その通りです。行政庁によって異なるのですが、事業承継の予定日の2か月前や3か月前に、事前に相談に来るように求めている行政庁もあります。東京都の場合は、「承継予定日の閉庁日を含まない前日の2か月から25日前まで」となっており、関東地方整備局の手引きには「承継予定日の90日前まで」となっています。
このように、事業承継を予定している場合、なるべく早めに許可行政庁に相談に行くことをお勧めいたします。期限ぎりぎりになって、慌てて相談に行くよりも、印象がよいですし、かつ、スケジュール調整もしやすくなります。『認可申請の前に、許可行政庁への事前相談は必須』と考えておくとよいでしょう。なお、手続きの流れについては、弊所のホームページも参考にしていただければと思います。
(参考ページ:建設業許可の事業承継(合併・分割・譲渡)に伴う認可申請で気を付けるポイントを解説)
認可申請の際に必要な書類は?
事業承継の予定日よりも前に認可申請が必要であるという点は、理解できたのですが、認可申請にはどういった書類が必要になるのでしょうか?

認可申請は、あくまでも会社間の合併・分割・事業譲渡が適切に行われることを前提としています。例えばですが、A社とB社の合併が適法に行われていないのに、建設業許可だけがA社に承継されるということはあり得ません。そのため、認可申請の際には、承継に関する書類として「分割・合併・事業譲渡に関する契約書や説明書」の提出が求められます。そういった「契約書」や「説明書」の中身を精査して、「合併・分割・事業譲渡が適切に行われること」を前提に認可申請の審査が行われるわけです。
また、重要な書類としては、経営業務管理責任者や営業所技術者の常勤性の確認資料があげられます。
経営業務管理責任者や営業所技術者の常勤性の確認資料ですか?
はい。みなさんご存知の通り、建設業許可を取得するには「経管」「営技」が、建設会社に常勤していなければなりません。「経管や営技の常勤」は、建設業許可を取得するための要件だけでなく、建設業許可を維持するための要件でもあります。そしてこの要件は、建設会社の合併・分割・事業譲渡といった事業承継の際にも当てはまるのです。
すこしわかりづらいかもしれないので、先ほどの、「10月1日に、建設業許可を持っていないA社が、建設業許可を持っているB社を合併します」という例で説明しますね。
建設業許可を持っているB社には、経管であるXさん、営技であるYさんがいます。B社は建設業許可会社なのですから、XさんとYさんは、当然、B社に常勤しています。このB社をA社が10月1日に合併して、建設業許可を承継する場合。XさんとYさんは9月30日までB社に常勤し、10月1日にはA社に常勤していなければなりません。この期間に空白があると、「許可会社に経管・営技が常勤していない状態」が生じることになり、せっかく認可を受けたとしても、認可が取り消されてしまう可能性があるのです。
たとえば、10月1日がA社とB社の合併日であるにも関わらず、営技であるYさんのA社の社会保険への加入日が10月10日だった場合。A社には10月1日~10月9日までの間、建設業許可の要件であるはずの営技が常勤していないことになってしまいます。これでは、認可を受けたとしても、常勤性が証明できなくなってしまいます。
このように、認可申請には、さまざまな理由でさまざまな書類が必要とされています。弊所のホームページでは「認可申請時に提出するもの」と「承継日後に提出するもの(後日提出書類)」と2つの場合分けをして、それぞれに必要な書類を記載していますので、ぜひ、弊所ホームページも参考にしていただければと思います。
(参考ページ:合併・分割・事業譲渡|建設業許可を承継するための「認可申請」で必要な書類)
合併・分割・事業譲渡における建設業許可承継の具体例
横内先生が代表を務める行政書士法人スマートサイドでは、どのような案件で、認可申請および事業承継をサポートした実績があるのでしょうか?
守秘義務に反しない範囲でお伝えさせて頂きますね。
まず1つ目が、「大臣許可会社が、本店と支店を分割し、支店に建設業部門を集約させる」という事案です。この事案では、「支店を子会社化し、本店とは別会社として建設業許可を承継させた」という特徴があります。分割設立した旧支店が東京都内にあったため、もともとの大臣許可を都知事許可に許可換えする必要もありました。そのため、「まずは、許可換え申請をし大臣許可を都知事許可に変更したうえで、その後、会社分割のための認可申請をおこなう」という2段階の手続きが必要なパターンでした。
このように会社の所在地によっては、認可申請だけでなく許可換え新規申請も必要になるという点について注意が必要ですね。このあたりについては、行政書士の先生でも、理解できている人は少ないと思うので、実際に経験したことによって、かなり精度の高い知識が身についたと自負しております。
また、2つ目が、許可を持っている子会社を、許可を持っていない親会社が吸収合併するパターンです。この会社は、2つとも東京都内にある会社でしたので、1つ目の事例のように許可換え新規申請は必要なく、認可申請のみで足りるケースです。「東京都庁への事前相談→認可申請→認可→事業承継→後日提出書類の提出」という順番で、手続きを滞りなく終わらせることができましたが、ほかの士業の先生との連携は欠かせません。
ほかの士業の先生との連携というと?
いま述べた一連の手続きは、すべて行政書士である私の方で受任することができます。しかし、合併契約には弁護士の先生、登記には司法書士の先生、税務上の手続きには税理士の先生、経管・営技の新会社での社保加入手続きは社労士の先生というように、専門分野が分かれてしまいます。法律上、行政書士が社保加入手続きや税務申告を行ってはいけないことになっていますので、各士業の先生には、スケジュールとともに、事前にどういった書類が必要かを共有しました。
合併・分割・事業譲渡は会社の組織再編を伴う、とても複雑な手続きですので、到底、行政書士がすべての範囲を網羅できるわけではありません。建設業許可を承継するためには、いつのタイミングで、どういった書類が必要か?を事前共有し、いわば船の舵を取るかの如く、他の士業の先生たちを先導していく必要があると感じています。
建設業許可を引き継ぐための「認可申請」が必要なみなさまへ
それでは、そろそろお時間になりましたので、これから「合併・分割・事業譲渡」を考えている建設会社のみなさんへ、横内先生から何かアドバイスはございますでしょうか?
強いて挙げるとすると、「相談はお早めに」ということです。認可の制度は、比較的新しく誕生した制度です。また、合併・分割・事業譲渡は以前と比べてメジャーになってきたものの、件数としては、それほど多くありません。そのため、行政としても「できるだけ早いタイミングでの事前相談」を望んでいるように感じます。

先ほど、お伝えした必要書類は「認可申請時」に提出するものと「事業承継後」に提出するものといったように2つに分かれています。また、事業承継に伴い新しく会社が新設される場合とそうでない場合とで、提出する書類の種類やタイミングが異なってきます。さらに、事業承継まで時間がないと、書類の不備や提出漏れといった思わぬ事態を招きかねません。弁護士や司法書士や社労士や税理士との連携も不可欠です。
そういった観点からすると、「事業承継が確実」となってからではなく「事業承継を予定している」くらいのタイミングで事前に相談いただけるとよいのではないかと思っています。
また「合併・分割・事業承継」は会社の外部に公表できないデリケートな内容であることが多いと思います。社外はもちろんのこと、社員にも知られたくないというケースもあるでしょう。「社長のほか、特定の役員にしか知られていない」というような状況でも安心してご相談いただけるように、行政書士法人スマートサイドでは、事前予約制の有料相談も実施しています。
この有料相談では、御社の事情や事業承継のタイミングを個別具体的にヒアリングし、どういった流れで承継したら建設業許可を切らさずに済むのかを、ご案内させていただきます。みなさんに安心して相談していただけるように「相談者1人1人への適切な対応」「質の高い面談時間の確保」という見地から事前予約制の有料相談とさせて頂いております。これから事業承継を迎える建設会社のみなさんには、ぜひ、この有料相談を、ご活用いただければと思っています。
本日は、長い時間ありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございました。














