建設業許可を取得するには、「常勤役員等(経営業務管理責任者)」と「専任技術者」の2つの要件が必要です。この要件は、どちらか一方が欠けても、許可を取得することはできません。
仮に建設業許可を取得できたとしても、どちらか一方が欠けてしまえば、許可要件を満たさないため、一度取得した建設業許可を取り下げなければなりません。
せっかく苦労して建設業許可を取得できたとしても、専任技術者の
- 病気やケガによる退職
- 高齢による退職
などがあれば、建設業許可を取り下げなければならず、再度、あらたに専任技術者を招き入れて、新しい建設業許可を取り直さなければなりません。「専任技術者」の要件は、「常勤役員等(経営業務管理責任者)」の要件に次いで、建設業許可を取得する際に、とても重要なポジションを占めています。
一般的に専任技術者になるには
- 施工管理技士などの国家資格があること
- 10年以上の実務経験を証明すること
の2点が知られています。
それでは、「国家資格」もなく「10年の実務経験」もない場合、専任技術者になることは、まったくできないのでしょうか?
この点について、意外と知られていないのが、「指定学科の卒業経歴」を使用して、10年の実務経験の証明期間を3~5年に短縮する方法です。
今回は、「管工事の建設業許可を新たに取得したい」という「空調設備や給排水設備の販売、設置、メンテナンス」等を行っている会社の代表取締役からのご相談です。
相談者 | 横田さん(仮名)60代・男性 |
---|---|
所在地 | 東京都中央区 |
役職 |
代表取締役 |
【相談】
空調設備や給排水設備の販売、設置、メンテナンスを主に行っている会社の代表取締役です。業歴は30年近くあり、会社の業績も極めて順調です。社員も20名以上います。
実は、以前から建設業許可(管工事)の取得の必要性について、社内で検討を重ねてきました。以前であれば、うちのような販売、設置、メンテナンスを主にやっている会社には、建設業許可は必要なかったのです。
しかし、最近になって、給排水の設備自体の金額が500万円をこえるような案件も出てきたため、「設備の価格+設置費用」を考えると、建設業許可が必要ではないか?という指摘を受けるようになりました。
あまり大きな声では言えませんが、「設備の価格+設置費用」が2000万円をこえるようなケースも年に何回かあります。あくまでも、設置工事費は、数十万円なので工事にかかる費用は少ないのですが、販売代金も含めると上記のような金額になってしまいます。
そこで、建設業許可を取得したいと考えているのですが、経営業務管理責任者の要件は代表の私で満たすことができると考えているのですが、どうしても専任技術者の要件を満たす人が社内に見当たりません。
管工事の施工管理技士の資格を持っている者もいなければ、10年以上の工事の実績を持っている社員もいません。給排水設備の設置まで含めて受注するようになったのは、ここ6~7年ですから、社員のだれを検討してみても、社内には10年の管工事の実務経験を満たしている人はいないのです。
そこで、ご相談ですが、弊社のように「国家資格者不在」「10年経験者不在」といったケースでは、
- 管工事施工管理技士の資格を持っている人を雇う
- 社員のだれかに管工事施工管理技士の資格を取らせる
- 10年の実務経験を証明する人を雇う
- 10年の実務経験を証明できるようになるまで、あと3~4年待つ
という方法しかないのでしょうか?
業歴も長く由緒ある会社ですので、代表者として、なるべくグレーなことはしたくありません。
弊社のような会社が建設業許可を取得するには、なにか特別な方法があるのでっしょうか?
【ご回答】
横田社長(仮名)の懸念の通り、仮に設置工事費用が数十万円であったとしても、給排水設備の販売価格と設置工事費用の合計が500万円を超えるようであれば、建設業許可の取得は必須です。
さらに、年に数回とはいえ2000万円をこえる金額の受注を受けているのであれば、なおさら建設業許可の取得は急がなければなりません。
それでは、「国家資格者なし」「10年の実務経験の証明不可」といったような横田社長のような会社で建設業許可を取得する方法はないのでしょうか?
実は、建設業許可を取得する際の「専任技術者」についは、「国家資格あり」「国家資格なし」といった2つのパターンで考えるのではなく、「国家資格なし」を「指定学科の卒業経歴あり」「指定学科の卒業経歴なし」というようにさらに場合分けし、下の表のような3つのパターンに分けて考えます。
専任技術者になる方法 | 種類 | 実務経験の証明年数 |
---|---|---|
国家資格あり | 建築士/施工管理技士など | 0年 |
国家資格なし | 指定学科の卒業経歴なし | 10年 |
指定学科の卒業経歴あり | 3~5年 |
このように
- 「国家資格あり」
- 「国家資格なし(指定学科の卒業経歴なし)」
- 「国家資格なし(指定学科の卒業経歴あり)」
と考えることによって、設業許可を取得しやすくなります。なぜなら、指定学科の卒業経歴のある人は実務経験の証明期間が10年から5年に短縮されるからです。
指定学科とは、以下のような建設業に関する特殊な学科を言います。
指定学科の具体例 | ||
---|---|---|
土木工学 | 建築学 | 都市工学 |
電気工学 | 電気通信工学 | 機械工学 |
衛生工学 | 交通工学 | 林学/鉱山学 |
土木工学には「開発科、海洋科、環境科、建設科…」が含まれたり、建築学には「環境計画科、住居デザイン科…」が含まれるなど、上記の表に記載した具体例はさらに、細分化されています。
このような学科を卒業していると、通常必要とされる10年の実務経験の証明が、3~5年に短縮されます。
卒業学校別、10年の実務経験の短縮例 | ||
---|---|---|
高等学校 | 指定学科卒業+実務経験5年 | |
中等教育学校 | 指定学科卒業+実務経験5年 | |
大学・短期大学 | 指定学科卒業+実務経験3年 | |
高等専門学校 | 指定学科卒業+実務経験3年 | |
専修学校 | 指定学科卒業+実務経験5年
(専門士、高度専門士である場合は3年) |
【解決策】
横田社長の会社が、少しでも早く建設業許可を取得するには、以下のような解決策が考えられます。
横田社長の会社には、「管工事施工管理技士の資格を持っている人」も「10年の実務経験を証明できる人」もいないという話でした。
しかし、最近6~7年は、設置工事も含めて受注しているとのことでした。であれば、指定学科卒業の経歴がある人が社内にいれば、指定学科+5年の実務経験を証明することによって、専任技術者の要件を満たし、建設業許可を取得することは可能です。
管工事の指定学科に該当する学科は、以下の通りです。とても多くの学科が、管工事の指定学科に該当します。
土木工学 | |||
---|---|---|---|
開発科 | 海洋科 | 海洋開発科 | 海洋土木科 |
環境造園科 | 環境科 | 環境開発科 | 環境建設科 |
環境整備科 | 環境設計科 | 環境土木科 | 環境緑化科 |
環境緑地科 | 建設科 | 建設環境科 | 建設技術科 |
建設基礎科 | 建設工業科 | 建設システム科 | 建築土木科 |
鉱山土木科 | 構造科 | 砂防科 | 資源開発科 |
社会開発科 | 社会建設科 | 森林工学科 | 森林土木科 |
水工土木科 | 生活環境学科 | 生産環境科 | 造園科 |
造園デザイン科 | 造園土木科 | 造園緑地科 | 造園森林科 |
地域開発科学科 | 治山学科 | 地質科 | 土木科 |
土木海洋科 | 土木環境科 | 土木建設科 | 土木建築科 |
土木地質科 | 農業開発科 | 農業技術科 | 農業土木科 |
緑地園芸科 | 緑地科 | 緑地土木科 | 林業工学科 |
林業土木科 | 林業緑地科 | ‐ | ‐ |
建築学 | |||
---|---|---|---|
環境計画科 | 建築科 | 建築システム科 | 建築設備科 |
建築第二科 | 住居科 | 住居デザイン科 | 造形科 |
都市工学 | |||
---|---|---|---|
環境都市科 | 都市科 | 都市システム科 | ‐ |
機械工学 | |||
---|---|---|---|
エネルギー機械科 | 応用機械科 | 機械科 | 機械技術科 |
機械工学第二科 | 機械航空科 | 機械工作科 | 機械システム科 |
機械情報科 | 機械情報システム科 | 機械精密システム科 | 機械設計科 |
機械電気科 | 建設機械科 | 航空宇宙科 | 航空宇宙システム科 |
航空科 | 交通機械科 | 産業機械科 | 自動車科 |
自動車工業科 | 生産機械科 | 精密科 | 精密機械科 |
船舶科 | 船舶海洋科 | 船舶海洋システム科 | 造船科 |
電子機械科 | 電子制御機械科 | 動力機械科 | 農業機械科 |
衛生工学 | |||
---|---|---|---|
衛生科 | 環境科 | 空調設備科 | 設備科 |
設備工業科 | 設備システム科 | ‐ | ‐ |
まずは、上記の指定学科を卒業している人がいないか、社内を確認してみてください。
<上記指定学科を卒業している社員がいる場合>
管工事の実務経験の証明期間は、10年から5年に短縮されます。その社員が御社に入社してから、5年以上経過しているのであれば、その社員を管工事の専任技術者として建設業許可を取得することが可能でしょう。
<上記指定学科を卒業している社員がいない場合>
上記の指定学科に該当する社員がいなかったとしても、あきらめるのは、まだ早いです。上記の指定学科に該当していなかったとしても、類似または同様の学科を卒業している社員がいる場合には、必ず、許可行政庁に照会をして、指定学科に該当するか否かを確認するようにしましょう。
場合によっては、上記の学科に該当しなくても、指定学科として認められるケースがあるからです。