建設業許可を取得するにあたって、10年の実務経験の証明に苦労する人は多いのではないでしょうか?
- 実務経験が10年ではなく7年しかない。
- 今の会社に入ってから5年しかたっていない。
- 知り合いの行政書士に相談してみたが、許可取得は難しいと言われた。
など、実務経験の証明に問題を抱えている人は多いようです。また、新規で建設業許可を取得する場合のみならず、いま持っている建設業許可にあらたに建設業許可を追加するようなケースでも、10年の実務経験を証明しなければ、許可業種を追加できない場合もあります。
例えば、今回ご紹介する「最初は電気工事だけで良かったけど、管工事も必要になってきた」とか、「最近になって元請から、管工事の許可も持つように言われる」など、業種追加の申請をする場合にも10年の実務経験の証明が必要です。
今回ご紹介するケースは、「今の会社の実務経験」だけでは10年に足らなかったため、「前の会社の実務経験」も合わせて証明した比較的難易度の高い事案でした。10年の実務経験の証明にお困りの方は、ぜひ参考にしてみてください。
相談内容:電気工事の許可だけでなく管工事の許可も欲しい
概要
会社所在地 | 東京都豊島区 |
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業種 | 電気工事業・管工事業 |
相談内容
相談内容 | 電気工事の許可を持っているが、管工事の許可も欲しい。前任の行政書士さんに相談したが、作業が全然進まない。インターネットを検索したらスマートサイドのホームページが出てきたので、ぜひお願いしたい。 |
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申請内容
申請内容 | ・建設業許可業種追加申請 |
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行政書士法人スマートサイドの対応
弊所のホームページをご覧になった建設会社の社長からのお問い合わせでした。お話しを伺うと、電気工事業の建設業許可を持っているが、「管工事業の許可も持つように取引先から言われている」とのこと。前任の行政書士にお願いしたところ、「期間が少ない」「書類が足りない」と言われ、挙句の果てに「許可取得が難しい」旨の判断をされたため、弊所に相談に見えました。
このように前任の行政書士さんに断られたため、弊所に相談に来る事業者さまは大変多いです。こういったケースで気を付けなければならない点は、「前任の行政書士さんが、なぜ、許可申請を渋ったか?」という点です。「前任者さんは、なぜ、許可取得が難しいという判断に至ったのか?」この点をまず明らかにする必要があります。
単純に行政書士の能力が劣っていたというケースもなくはないですが、それ以上に、「実務経験がどうしても10年に満たない」とか「経管の証明にどうしても無理がある」といった原因があることが多いです。
今回の事案でも、十分に慎重に精査していく必要があるむね説明し、ご納得いただけたので、受任する運びとなりました。前任者さんが作成した書類や建設業許可を取得してから現在に至るまでの書類一式を確認することから作業を始めることにしました。
いまの会社の実務経験だけでは足りない場合の対処法
まず、このお客様の場合は、すでに東京都の電気工事業の建設業許可を取得しているため、東京都に提出している申請書類や決算変更届といった書類の精査から始める必要があります。
そして、次に、管工事の10年の実務経験を証明するには、何をどうすればよいのか?といった検討をしていく必要があります。
1.過去の届出書類の精査
(1)過去の申請書類の確認作業
新規で建設業許可のご依頼を受けるような場合には、「過去の申請書類の確認作業」は必要ないです。そもそも新規で申請する以上「過去の申請書類」というものがありません。
しかし、業種追加申請のように、過去に申請書類がある以上、過去の申請状況はどうだったのか?を確認する必要があります。また、前任の行政書士さんがある程度、作業を進めていたようだったので、そのあたりの書類もあわせて確認させて頂きました。
(2)決算変更届の提出状況
過去の申請状況を見ていくと、直近の決算(6月末決算)の決算変更届の提出がなされていなかったため、まずは、直近決算の決算変更届を提出しました。その際に、注意しなければならないのは、完成工事売上高の割振りです。
仮に御社の年間売り上げが、1億円だったとした場合、その売上のすべて(1億円)を電気工事に計上してしまったら、管工事の工事実績を証明することができなくなってしまいます。管工事の業種追加をするには、管工事の実績を10年証明しなければなりません。それなのに、過去10年にわたって、管工事の売上が0であったら、管工事の工事実績を証明しようがないですね。
決算変更届の提出に際しては、会社の実態に則した記載が必要ですが、特に業種の追加を検討している事業者さまは、過去の決算変更届の各業種の売上高の割振りについて注意してみてください。
2.前の会社の実務経験の証明方法
(1)今の会社の実務経験だけでは足りない場合
管工事の専任技術者になる人の経歴を確認したところ、今の会社に入社してから8年しか立っていません。そうすると10年の実務経験を証明するのに2年足りません。その2年は前職(前の会社)の実務経験を証明するしかありません。手っ取り早く資格を取得して頂ければ、実務経験の証明をする必要はないのですが、誰でも簡単に資格が取れるわけではないですね。
おそらく、前任の行政書士さんは、今の会社の8年であれば実務経験を証明できるものの、前の会社の実務経験(2年分)を証明するのは難しいと考えた?のではないでしょうか。そのため、管工事の業種追加はできないとの判断に至ったものと考えます。
もっとも、前の会社の実務経験(2年分)を証明する方法がないわけではありません。
(2)前の会社の実務経験の証明方法
今の会社だけでなく、前の会社の実務経験の証明が必要になった場合、前の会社が「建設業許可業者であったか」「建設業許可をもっていない会社だったか」によって対応が異なります。今回は、「建設業許可をもっていない」会社でした。
許可取得状況 | 実務経験を証明するのに役立つ資料 |
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前の会社が許可業者 | 建設業の許可証など |
前の会社が未許可業者 | 工事請負契約書、請求書・入金通帳など |
この場合、2年間の実務経験は、「契約書」「注文書・請書」「請求書+通帳」のいずれかで行うことになります。今回の事案では、前の会社との関係が良好であったため「請求書+通帳」で2年間の実務経験の証明を行うことができました。
(3)前の会社の実務経験期間の常勤性の証明方法
もっとも、前の会社での実務経験2年が証明できたとしても、喜ぶのはまだ早いですね。専任技術者の場合には、上記の2年間、常勤していたことが分かる資料の提出が必要です(東京都の場合)。
これは、東京都の手引きにも明確に記載されていますが、要は、実務経験を証明するだけでなく、その実務経験の期間、会社に常勤していたことまでも証明しないと、専任技術者として認めてくれないわけです。
実務経験証明期間の常勤を確認する資料としては
- 健康保険証の写し
- 厚生年金被保険者記録照会回答票
- 住民税特別徴収税額通知書
- 確定申告
が挙げられます。
「1.健康保険証の写し」は、前の会社を退職する時に、健康保険証も返却しているはずなので、前職(前の会社)での常勤性を確認するために用いることはできません。
「3.住民税特別徴収税額通知書」は、前の会社に残っていれば良いのですが、古いものは処分されているリスクが高いです。
「4.確定申告書」は、法人の役員の場合もしくは個人事業主の場合には使えますが、会社員の場合には用いることが出来ません。
以上の理由から、実務経験期間中の常勤性の証明で、もっとも多く用いるのが、「2.厚生年金被保険者記録照会回答票」です。これは、年金事務所で無料で取得することができます。「いつからいつまで、どの会社で厚生年金に加入していたかが分かる書類」なので、常勤性を証明するにはうってつけの書類です(但し、「そもそも厚生年金に加入していませんでした」となると常勤性を証明することはできませんので、あくまでも厚生年金に加入していることが前提となります)。
3.管工事の建設業許可を取得するために実際に用意した資料
(1)本件では、前の会社の常勤性を証明するために何を準備したか?
では、本件では、どうだったでしょうか?
前の会社の常勤性を証明するので、「1.健康保険証の写し」は選択肢から外れます。「3.住民税特別徴収税額通知書」は8年も前のものでしたので廃棄されていました。残るは、「2.厚生年金被保険者記録照会回答票」と「4.確定申告書」の2点です。
「2.厚生年金被保険者記録照会回答票」を確認したところ、実務経験の証明に用いる2年間は厚生年金に加入していませんでした。他の期間の厚生年金加入記録はあるのですが、よりによって該当する2年間の部分だけ加入していません。これでは「2.厚生年金記録照会回答票」も使えません!
もっとも、管工事の専任技術者は、前職で会社の常勤取締役に就任しており、確定申告もキチンとなさっている方でした。しかも、その確定申告書も保管されていました。確定申告書には「役員報酬」を記載する箇所があります。その箇所を確認したところ、「常勤の取締役」として報酬が支払われていたことがわかりました。
ということで「4.確定申告書」を2期分用いて、実務経験証明期間2年間の常勤性を証明することができました。
証明資料 | 可否 |
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1.健康保険証の写し | 前の会社での常勤性を証明するのは不可 |
2.厚生年金記録回答票 | 厚生年金未加入期間であったため証明不可 |
3.住民税特別徴収通知書 | 前の会社から借りることができず不可 |
4.確定申告書 | 役員報酬に常勤の記載があり証明可 |
(2)今の会社の実務経験の証明と実務経験期間の常勤性の証明
前の会社の実務経験の証明と実務経験証明期間の常勤性の証明には、とても冷や冷やしたのですが、今の会社の実務経験の証明と実務経験証明期間の常勤性の証明については、
- 健康保険証の写し
- 今の会社の「請求書と通帳」のセット8年分
で無事クリアすることが出来ました。今の会社に「8年間勤務し、管工事を行っていた」ことの証明なので、資料さえ残っていればクリアできるレベルです。
(3)無事、管工事の建設業許可を取得!
以上のように「前の会社での2年間+今の会社での8年間」の実務経験と常勤性を無事証明することができ、管工事の許可を取得することができました。
前の会社(前職)での実務経験の証明が必要な方へ!
皆さんは、ここまでお読み頂いて、今回の事案の難しさをご理解いただけたでしょうか?前任の行政書士さんが、管工事の業種追加申請は難しいと判断された経緯を理解できたでしょうか?。
専任技術者になるには、実務経験の証明のみならず、実務経験証明期間の常勤性の証明が必要です。
本件では、実務経験証明期間の常勤性の証明の際に、もっともよく用いられる「厚生年金被保険者記録照会回答票」が使えませんでした。理由は、そもそも厚生年金に加入していなかったから。過去において厚生年金に加入していなかったという事実は、どうあがいても、どんなに策を練ろうと、覆すことはできません。この点が本件で一番難しいところでした。
もっとも本件では、常勤取締役としての確定申告書があったため、何とか実務経験証明期間の常勤性を証明することができました。たとえば、
- 取締役であっても非常勤であった場合
- 常勤取締役であっても、報酬額が少なかった場合
- そもそも確定申告を行っていなかった場合
- 確定申告を行っていても、申告書類を破棄してしまった場合
上記のどれか1つにでも当てはまれば、今回の管工事の許可取得はあり得ませんでした。本件の難しさは、この辺りにあったように思います。
このように、行政書士法人スマートサイドは、難易度の高い案件、前任者さんに断られてしまった案件でも、許可を取得できる場合があります。建設業許可申請でお困りの際には、ぜひ、下記お問い合わせフォームからご連絡下さい。