執行役員を経営業務管理責任者にして、建設業許可を「維持」する!「取得」する!

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東京都の建設業許可を取得・維持する専門家。大規模な会社の許可申請や、複雑な事案での許可維持を数多くサポート。とくに「経営業務管理責任者の要件の証明」や、「営業所技術者の実務経験の証明」において、困難な状況にある会社を数多く支援してきた実績があり、お客さまからの信頼も厚い。「建設会社の社長が読む手続きの本(第2版)」を出版。 インタビューは、こちら。

本ページに掲載している内容は、2025年10月に出版したkindle書籍『執行役員を経営業務管理責任者にして、建設業許可を「維持」する!「取得」する!』としても、刊行しております。また、同様の解説動画をYouTubeにもアップしています。

本ウェブサイト上からも全文をお読みいただけますが、kindle版をご利用いただくことで、電子書籍として保存・閲覧できるため、インターネット環境がない場所でも参照でき、また、持ち運びにも便利です。ご利用環境や目的に応じて、YouTube動画・本サイトもしくはkindleのいずれの形式でもご自由にお選びください。

はじめに:執行役員を経営業務管理責任者にする方法

みなさん、はじめまして。行政書士法人スマートサイド、代表の横内です。みなさんの中に、「建設業許可を取りたいが、経営業務管理責任者(以下、経管)の要件を満たせない」という人や「現在の経管である取締役の退任に伴い、後任の候補者が見つからない」という人は、いませんか?

建設業は、日本の経済を支える基幹産業であり、その事業運営には厳格な法令遵守が求められています。特に「建設業許可」は、500万円以上の工事を施工する建設会社にとって、円滑な事業活動を行う上で必要不可欠です。許可の取得・維持は、会社の存続を左右します。その許可要件の中でも、最もハードルが高いとされているのが、経管の要件の証明です。

経管の要件は非常に複雑で、多くの建設会社の経営者や実務担当者が、その要件を満たせず、許可の取得や更新を諦めてしまうケースが後を絶ちません。実際に、私は、経管の要件を証明することができず、泣く泣く建設業許可取得をあきらめていく事業者を何社も見てきました。

従来、経管は、会社の「取締役」でなければならないとされてきました。しかし、多様化する現代の企業組織においては、取締役以外の役職者が実質的な経営を担うことも増えてきています。また、近年の運用の改正により、執行役員が経管になる道が、整備されつつあります。

そこで、本書では、従来の常識を覆す新たな道、すなわち「執行役員」を経管として建設業許可を「維持」または「取得」する方法について、専門家である行政書士法人スマートサイドの豊富な実績と知見を基に、徹底的に解説していきたいと思います。

本書は、「新規で建設業許可を取得したい人」はもちろんのこと、「許可を維持したいが、後任の経管が見つからずに悩んでいる人」や、「外部人材を取締役として迎え入れることに抵抗がある人」など、建設業に携わるすべての方々を対象としています。

この本が、みなさんが直面している課題を解決し、事業の発展に繋がる一助となることを心から願っています。

※本書は、「執行役員を経管にして建設業許可を維持・取得する方法」をテーマにしているため、個人事業主として建設業許可を取得したい人の説明は、割愛しています。また、わかりやすさと実用性を優先し、法律上の厳密な解釈よりも、実務上の運用や、弊所の豊富な経験・申請実績を重視して解説しています。あらかじめご了承ください。

第1章:経営業務管理責任者とは

そもそも、経管とは、何のことを指しているのでしょうか?建設業許可を取得するには「経管が必要だ」と知っているだけでは、その証明は難しいかもしれません。そこで、第1章では、「経管の意義」「経管になるための3つの条件」「経管の要件を証明するための必要書類」の3点について、解説していきたいと思います。

1.経管の意義

経営業務管理責任者、略して「経管」とは、「営業取引上、対外的に責任を有する地位にあって、経営業務の執行等、建設業の経営業務について総合的に管理した経験を有するもの」のことを言います。しかし、この説明だけでは、かなり抽象的で、正直、何のことを言っているのか、いまいち、よく理解することができません。

行政書士法人スマートサイドでは、「建設業許可を取得したい」とお考えのお客さまに対して、「経管とは、会社の建設業部門の最高責任者のことですという説明の仕方をしています。この点について、厳格な解釈は、かえって理解を難しくしてしまうため、本書では「会社の建設業部門の最高責任者として、経営全体に関わる広範な権限と責任を持つ人」と解釈して進めていきます。

それでは、なぜ、建設業の許可を取得するには「経管」という要件が必要なのでしょうか。理由は、建設業特有の2つの特徴にあります。

まず1つ目は「多重下請構造」です。建設工事はゼネコンから一次、二次、三次下請けへと複数の業者を経て進められます。この複雑な構造では、経営判断を誤ると連鎖倒産や賃金未払いなどの社会問題につながりかねません。2つ目は「完全受注生産」です。建設工事は一品生産で、着工から完成まで長期間かかります。その間に資材価格や人件費が変動し、資金繰りも難しくなります。

このような建設業界の特殊性に配慮し、建設業許可を取得する際には、一定期間、建設会社の経営に携わっていた経験のある人(経管)を許可の要件とすることによって、事業を安定して継続させ、健全な経営を行う役割を求めているのです。

建設業の経営は他の産業よりも高いリスク管理能力と責任が必要です。だからこそ、建設業許可では経営全体を統括できる「経管」の存在が要件とされているのです。

2.経管になるための3つの条件

上記のような建設業界の特殊性から経管が許可要件として求められているとして、経管になるためには、どういった条件をクリアしなければならないのでしょうか?行政書士法人スマートサイドでは、実際に建設業許可を取得したいと相談に訪れたお客さまに対して以下のように、経管になるための条件を説明をしています。

(ア)申請会社の常勤の取締役であること

経管は、その会社の建設業部門の最高責任者であり、日常的に会社の業務を管理・執行する立場にあるため、申請会社に「常勤」していることが大前提です。常勤とは、単に会社に籍を置いているだけでなく、原則として週5日程度の勤務、健康保険・厚生年金保険への加入、そして給与の支払いを受けているといった、実態的な勤務関係が求められます。

また、経管となる人物は、原則として「取締役」であることが必要です。取締役は会社法上の役職であり、会社の意思決定に参画し、その結果に法的責任を負う立場にあります。このため、取締役という地位が、経管に求められる責任と権限に、ふさわしいとされています。

(イ)取締役としての5年以上の経験があること

経管には、単に建設業の知識があるだけでなく、経営者としての経営経験が不可欠です。建設業許可は、数億円、数十億円規模の工事を請け負うことを可能にするため、経営経験のない者に許可を与えれば、事業の破綻や社会的な信用失墜を招きかねません。そのため、「法人の取締役もしくは個人事業主」として5年間以上の経営経験が求められます。

この5年間の経験は、必ずしも申請会社での経験である必要はありません。前職の甲社で3年間、現職の乙社で2年間、合計5年間の取締役経験があれば、(イ)の条件を満たします。また、個人事業主として建設業を営んでいた期間も、この5年間の経験に含めることができます。重要なのは、「経営者」としての経験を5年間積み重ねてきた事実です。

(ウ)上記5年間、建設業をおこなっていたこと

(イ)の5年間の経験は、どんな業界の経験でも良いわけではありません。「建設業」における経営経験であることが必須条件です。例えば、製造業、飲食業、IT企業などで5年間取締役を務めていたとしても、建設業に携わった経験がなければ、一部の例外を除いて、(ウ)の条件を満たすことはできません。

3.経管の要件を証明するための必要書類

経管になるための(ア)(イ)(ウ)の条件をクリアするためには、どんな書類が必要になるのでしょうか?当然のことながら建設業許可の審査は、書面審査で、口頭審査ではありません。どんなに口頭で「私には、5年以上の建設会社の経営経験がある」と説明をしたとしても、それを裏付ける書類がなければ、役所が許可を出すことはありません。この裏付け書類についても、(ア)(イ)(ウ)の3つの条件ごとに解説していきます。

(ア)申請会社の常勤の取締役であること

まず、申請会社に「常勤していること」の証明には、「健康保険・厚生年金保険被保険者に関する標準報酬決定通知書」や「厚生年金保険の被保険者記録照会回答票」などの書類が必要です。

前述したとおり、経管は、単に会社に籍を置いているだけでなく、週5日程度の勤務、社会保険への加入、そして給与の支払いを受けているといった、実態的な勤務関係が求められます。社会保険料や税金の支払いの記録から、実体的な勤務関係があることを証明していくのです。

また、「取締役であること」は、履歴事項全部証明書によって、証明することが必要です。

(イ)取締役としての5年以上の経験があること

「取締役としての5年以上の経験」の証明には、履歴事項全部証明書(または、閉鎖事項証明書)が必要です。登記簿謄本には、取締役に就任した日、取締役を退任・辞任した日が、記載されています。その日付によって、実際に「取締役としての経験が5年以上あるのか」を証明することになります。

仮に、前職の甲社で3年間、現職の乙社で2年間、合計5年間の取締役経験があるという場合には、甲社の登記簿謄本、乙社の登記簿謄本の2通が必要になりますし、取締役であった期間が、古い場合には、閉鎖事項証明書が必要になる場合もあります。

このように、「取締役としての5年以上の経験」は、登記簿謄本を取得することによって、比較的簡単に確認することができます。

(ウ)上記5年間、建設業をおこなっていたこと

「上記5年間、建設業をおこなっていたこと」を証明するには、工事請負契約書や注文書や請求書や入金通帳が必要になります。建設業許可を取得する際には、5年分の工事請負契約書や注文書や請求書や入金通帳を必要な件数分、きちんとそろえることができるか否かがネックなります。必要件数や証明方法は、地域ごとにばらつきがあるほか、行政書士の実務能力(書類作成能力)によっても、許可取得の可能性が大きく変わってくる部分です。

第2章:執行役員が経管になるための条件

第1章では、取締役が経管になるための3つの条件と、それを証明する書類について解説しました。これは、取締役が経管になる、いわゆる原則パターンです。この原則パターンを踏まえたうえで、第2章では、いよいよ「執行役員」が経管になるための条件という本題について、入っていきたいと思います。

1.執行役員とは

まず、会社法には、「執行役員」という役職は定められていません。取締役や監査役といった法定の役員とは異なり、執行役員はあくまで会社が独自に設ける役職です。多くの企業では、定款や取締役会規程などで執行役員制度を導入し、取締役会で決定された経営方針を実行する立場として執行役員を任命しています。

執行役員は、日々の業務執行を担当し、部門長や本部長として現場のマネジメントを担います。執行役員という言葉になじみのない人もいるかもしれませんが、法律上の役員ではなく、「経営の意思決定を担う取締役」と、「現場で業務を遂行する部長」の中間に位置する存在と理解するとわかりやすいでしょう。

取締役が決定した経営方針を現場に落とし込み、実行することで会社全体の運営を支える役職、それが執行役員です。その役割は、主に現場の業務遂行に重きが置かれます。

また、建設業許可の取得において極めて重要なポイントは、執行役員は法律上の役員ではないため、登記簿謄本に氏名が記載されないという点です。この「登記されない」という事実こそが、執行役員の経管の要件を証明するうえで最大の論点(障壁)となってきました。経管は「取締役であること」が原則で、登記簿謄本に名前が載らない執行役員は、経管として認められにくい理由がここにあります。

しかし、近年では多くの大企業や中堅企業で、取締役が経営の意思決定に専念し、執行役員がその決定に基づき業務を遂行するという役割分担が進んでいます。こうした実態を踏まえ、一定の条件を満たせば、執行役員でも経管として認められる道が開かれつつあります。これは、建設業許可の維持・取得を柔軟にし、その可能性を広げる重要な変化ととらえることができます。

2.執行役員が経管になるメリット・デメリット

以前の常識からいうと、経管になれるのは取締役だけでしたが、実際に弊所でも執行役員としての地位や執行役員としての経験を使って、経管の要件を証明し、建設業許可の「取得」または「維持」に成功していることは事実です。それでは、執行役員が経管になる主なメリット・デメリットはどこにあるのでしょうか?

(1)執行役員が経管になるメリット

執行役員が経管になるメリットとして一番大きいのは、取締役登記が不要という点です。もし、仮に、「経管は取締役でなければならない」としたらどうでしょう。既存の取締役に経管候補に該当する人がいればよいですが、経管候補に該当する人がいなければ、経管の要件を満たす外部の人材を見つけ出し、その人を取締役として招聘し、登記しなければなりません。

しかし、建設業許可を取得するためだけに外部の人材を取締役として登記することに抵抗を感じる会社は少なくありません。株主や他の取締役が難色を示すこともあり、社内の意思決定に時間がかかるケースも見られます。とくに規模の大きい会社や歴史のある会社には、そういった傾向が多く見受けられます。

そうした場合、取締役ではなく、執行役員として登用することで経管として認められれば、取締役登記が不要となり、社内手続きをスムーズに進められます。心理的な抵抗なく許可取得手続きを進められる大きなメリットがあります。

さらに重要な利点として、会社の業務執行に長年携わり、現場や経営の状況を深く理解している執行役員がいれば、外部から新たに人材を招くまでもなく、その人物を経管として活用することができるというメリットがあります。

外部人材を取締役に迎え入れる場合には、株主承認や登記、役員報酬の決定など、煩雑な社内調整やコストが発生します。しかし、すでに社内で責任ある立場を担っている執行役員であれば、こうした調整やコストを大幅に省くことができます。

このような執行役員は、社内文化や事業内容を理解している人材であるため、経管としての自らの役割を無理なく全うできる点も見逃せません。早期に許可申請や経管変更に対応できる社内体制を整えることができます。こうした点は、許可の維持・取得を効率的に進めるうえで大きなメリットとなります。

(2)執行役員が経管になるデメリット

執行役員を経管にする方法にはメリットがある一方で、注意すべき点も少なくありません。まず誤解してはいけないのは、執行役員を経管にできるようになったからといって、建設業許可の取得が簡単になったわけではないということです。むしろ、取締役ではない人物を経管とする申請は「例外」とされるため、通常の申請よりも遥かに厳格な審査が行われます。

さらに、書類の準備には、かなりの手間がかかります。取締役であれば登記簿謄本だけでその地位や経歴を証明できますが、執行役員の場合はそうはいきません。社内規程、職務権限を示す資料など、多くの証拠書類を揃えたうえで、それらの内容が互いに矛盾なく整合していることを示す必要があります。これらの書類の確認には、膨大な時間と労力が求められます。

また、自治体によっては(東京都のように)、本申請の前に事前相談(事前審査)が必須であり、国土交通大臣許可の場合には個別の認定手続きが必要です。これらは、申請する執行役員が本当に経管としてふさわしい人物かどうかを、審査担当者が事前に確認するためのものです。この段階で十分な説明や証明ができなければ、本申請に進めないこともあるため、準備には万全を期す必要があるのです。

3.執行役員の地位・経験を活かすことができる3つのパターン

ここまで「執行役員の意味」や「メリット・デメリット」について解説してきましたが、実際に執行役員の地位や経験を活かすことができるパターンは、3つあります。第1章で述べた(ア)(イ)(ウ)の条件を改めて、執行役員用に書き直すと、以下の3つのパターンで、執行役員の地位・経験を活かすことができるのです。

―パターン1―

(ア)申請会社の常勤の『執行役員』であること

(イ)取締役としての5年以上の経験があること

(ウ)上記5年間、建設業をおこなっていたこと

―パターン2―

(ア)申請会社の常勤の取締役であること

(イ)『執行役員』としての5年以上の経験があること

(ウ)上記5年間、建設業をおこなっていたこと

―パターン3―

(ア)申請会社の常勤の『執行役員』であること

(イ)『執行役員』としての5年以上の経験があること

(ウ)上記5年間、建設業をおこなっていたこと

少し複雑に感じるかもしれませんが、「パターン1・2・3」の違いは、経管となる人物が「取締役の経験」と「執行役員の経験」のどちらを使うか、そして「申請会社で取締役になるのか?執行役員のままか?」の組み合わせです。

「パターン1」は、他の建設会社で5年以上の取締役としての経験がある人を、執行役員として招きいれるケースです。建設業許可を取得するためだけに、外部の人材を取締役登記することに抵抗があるというような場合に有効な方法です。

「パターン2」は、執行役員としての5年以上の経験がある人を取締役登記したうえで、建設業許可を取得するケースです。現場と経営を深く理解している既存の執行役員を活用する場合に、最もシンプルで確実な方法といえます。

「パターン3」は、執行役員としての5年以上の経験を使って、執行役員の地位のまま、建設業許可を取得するケースです。経管候補本人が取締役登記に難色を示す場合や、他に経管候補がいない場合に、この方法を検討します。

4.執行役員が経管になるための必要書類

それでは、執行役員が経管として認められるためには、どのような書類を準備すればよいのでしょうか?第1章の冒頭で「経管とは、会社の建設業部門の最高責任者である」と説明しました。執行役員が、経管になるために必要な書類についても、この考え方に基づいて説明を行います。

取締役ではない執行役員が経管になるには、その人物が建設業部門の最高責任者であることを、客観的な書類によって証明しなければなりません。言い換えれば、建設業部門の最高責任者である」ことを裏付ける証拠を提出できれば、執行役員であっても経管として認められる可能性があるということです。この証明のためには、いくつかの重要な書類を揃え、それぞれの内容が矛盾なく整合している必要があります。

(1)組織図

まず、必要となるのが会社の組織図です。会社の組織図を用意し、建設業部門の存在を明示するとともに、経管候補となる執行役員が取締役などの直下に位置しており、建設業部門全体を統括していることを示すことが必要です。

『組織図1』をご覧ください。この組織図では、会社内に4つの部署があり、工事部(建設業部門)の責任者が、執行役員・鈴木一郎さんであることが一目瞭然です。

続いて、『組織図2』の(株)スマートサイド建設の組織図をご覧ください。この組織図では、会社内に「ビジネスソリューション部」「ヒューマンリソース部」「テクニカルマネジメント部」「コーポレート管理部」の4つの部署があることがわかります。しかし、どの部署が建設工事部門を担当しているのか?判然としません。

そのため、組織図の他に業務分掌規程も必要になります。

(2)業務分掌規程

業務分掌規程とは、各部署の職務内容や責任範囲を定めた社内規程のことを言います。Googleで「業務分掌規程 サンプル」といったワードで検索すると、さまざまな形式の業務分掌規程を見ることができます。提出する業務分掌規定には、とくに法定された形式・様式はありません。

業務分掌規程では、「執行役員が業務執行を行う特定の業務部門が、建設業に関する部門であること」を証明します。たとえば、以下のような業務分掌規程があったとします。

(株)スマートサイド建設 業務分掌規程

第1条 (目的)

本規程は、当社の組織運営を円滑にし、業務の適正かつ効率的な遂行を図るため、各部門の職務分掌を定めることを目的とする。

第2条 (適用範囲

本規程は、当社の全役員および従業員に適用する。

第3条 (各部の職務分掌)

ビジネスソリューション部:当社の営業活動および顧客対応を所管し、次の業務を担当する。

1.取引先の開拓および既存顧客との関係維持・強化

2.広報・広告・販促活動

3.顧客管理、アフターサービス対応

4.その他営業活動に付随する業務

ヒューマンリソース部:従業員の採用・教育・労務管理を所管し、次の業務を担当する。

1.人員計画の立案、採用活動、入社手続き

2.労働時間、給与計算、社会保険・労働保険に関する事務

3.就業規則・社内規程の整備および運用

4.社員教育・研修の企画と実施

テクニカルマネジメント部:建設工事の施工・安全・工程管理を所管し、次の業務を担当する。

1.内装仕上げ工事の請負および施工

2.内装仕上げ工事計画の立案および施工体制の整備

3.下請業者の選定、指導、契約管理

4.施工図、工事写真、竣工書類など技術関連資料の作成

5.その他、上記工事の遂行に付随する業務

コーポレート管理部:会社全体の管理部門として、総務・経理を所管し、次の業務を担当する。

1.株主総会、取締役会等の運営事務

2.会社規程、印章、文書、契約書等の管理

3.経理・会計処理、資金繰り、税務申告に関する事務

4.会社資産、設備、備品の管理

5.情報システム、通信設備の管理

6.官公庁、関係団体との渉外業務

この業務分掌規程は、『組織図2』の(株)スマートサイド建設のものとお考え下さい。この組織図と業務分掌規程をセットで見ると、(株)スマートサイド建設では、テクニカルマネジメント部の最高責任者として執行役員・鈴木一郎さんが存在し、かつ、テクニカルマネジメント部が(株)スマートサイド建設の建設業部門である「内装仕上げ工事」の一切を管轄していることがわかります。

注意すべきは、「建設業に関する事業の一部のみを所掌する部署の執行役員は経管として認められない」という点です。(株)スマートサイド建設の例でいうと、テクニカルマネジメント部以外の、ビジネスソリューション部でも工事業務を担当しているような場合です。この場合、(株)スマートサイド建設の建設工事における最高責任者は鈴木一郎さんではなく、ビジネスソリューション部のトップである佐藤二郎さんであると言えなくもありません。建設工事の担当部署が複数部署に分かれているような会社は、注意が必要です。

(3)取締役会規程・執行役員規程

取締役会規定・執行役員規定も必須の書類です。

取締役会規程では、執行役員の選任・解任や、業務執行権限の委譲を取締役会が決定・監督する旨を定め、執行役員が取締役会の決定に基づいて職務を遂行する体制を裏付けます。

執行役員規程では、執行役員の職務の範囲や報酬、代表取締役や取締役会の指揮命令の下で業務を遂行することが明確に規定されている必要があります。

たとえば、以下のような取締役会規定・執行役員規定の条文です。

(株)スマートサイド建設 取締役会規程

第〇条 (決議事項)

取締役会で決議する事項は、法令や定款に記載されている事項の他、以下の通り、会社の重要な業務執行について決議されるものとする

執行役員に関する事項

① 執行役員の選任・解任

② 執行役員への業務執行権限の委譲の決定

③ 執行役員の担当業務の決定

 

(株)スマートサイド建設 執行役員規程

第〇条(職務内容)

1.執行役員の職務は、執行役員ごとに取締役会において決定する。

2.執行役員は、取締役会の決議により決定された業務方針に従って、代表取締役の指揮および命令のもと忠実に業務執行を行わなければならない。

(4)取締役会議事録

最後に、取締役会議事録を準備します。実際に経管候補者が執行役員として選任され、建設業部門に関する最高責任者として、具体的な業務執行権限を付与された事実を示す重要な証拠です。議事録には「執行役員としての地位への選任」「担当部署の決定」「具体的な業務執行権限の委譲」に関する記載があるとよいでしょう。

先ほどの(株)スマートサイド建設の例でいうと、以下の通りです。

(株)スマートサイド建設 取締役会議事録

【決議事項】

執行役員選任の件

議長は、〇月〇日付けで鈴木一郎を建設業部門の経営業務管理における責任者として、テクニカルマネジメント部の執行役員に選定し、および、それに伴う業務執行権限を委譲したい旨を述べ、その賛否をはかったところ、満場一致をもって承認可決された。

以上、「(1)組織図」「(2)業務分掌規程」「(3)取締役会規程・執行役員規程」「(4)取締役会議事録」をかなり細かく見てきましたが、おおよそのイメージをつかむことは、できたでしょうか?

これらの書類をすべて揃え、その内容に整合性を持たせることで、初めて執行役員が経管としての地位にふさわしいと判断されます。もし、これらの書類の作成や内容の整合性に不安を感じる場合は、専門家である行政書士に相談することを強く推奨します。

第3章:新規許可取得と経管変更の事例

執行役員が経管になるための要件や必要書類は、非常に専門的で難しい問題です。第2章では、(株)スマートサイド建設という会社を例にして、テクニカルマネジメント部の執行役員の鈴木一郎さんが、経管になるための必要書類について、サンプルを用いつつ説明してきました。

この章では、実際に行政書士法人スマートサイドが手がけた成功事例を紹介します。

1.他社での取締役経験者を執行役員として招聘したA社

A社は、新規事業として電気通信工事業の建設業許可取得を目指す、従業員数100名を超える大企業です。しかし、電気通信工事業は、新規事業としての立ち上げを検討しており、過去に工事の実績はありません。そのため、社内の取締役には、建設業の経営経験を持つ人が1人もいませんでした。そこで、過去に別の建設会社で取締役を務め、5年以上の経営経験を持つベテランのBさんを外部から招聘することを検討しました。

A社にはすでに取締役が5名おり、これ以上、取締役の人数を増やすことは難しいという事情がありました。また、数年内には株式上場を目指すことから、外部の人材を取締役に就任させることに抵抗があったようです。そこで、A社は、Bさんを取締役ではなく、「執行役員」として招聘することを決定しました。

このケースは、第2章で述べたパターン1のケースです。

(ア)申請会社の常勤の『執行役員』であること

(イ)取締役としての5年以上の経験があること

(ウ)上記5年間、建設業をおこなっていたこと

弊所は、Bさんが過去に他社で「取締役としての5年以上の経験(イ)」があったことを登記簿謄本で確認しました。また、その会社が建設業許可を有していたことを許可証のコピーで確認し、「上記5年間、建設業を行っていたこと(ウ)」を確認することができました。

同時に、これからBさんを執行役員として招き入れるA社に対しては、「組織図」「業務分掌規程」「取締役会規程・執行役員規程」を整備してもらい、Bさんを建設業部門の最高責任者として明確に位置づけることができるように調整しました。さらに、取締役会の開催にあたって、「取締役会議事録」に、「Bさんを執行役員に選任し、建設業部門の最高責任者として迎え入れ、具体的な業務執行権限を委譲すること」を明記するようお願いしました。

A社のケースは、経管要件を満たす外部人材を執行役員として迎え入れ、A社内の体制を整備することで、無事、新規の建設業許可を取得した事例です。

2.自社執行役員を執行役員のまま経管にしたC社

C社は、長年、建設業を営む中堅企業でした。親会社の意向により取締役が全員交代した結果、経管に必要な5年以上の経験を持つ取締役が社内に誰もいない状態でした。また、外部からの招聘も困難であったため、このままでは数年間、新規許可を取得できず、事業拡大に支障をきたします。

しかし、工事部門を長年にわたり統括してきた執行役員Dさんがいました。Dさんは、取締役登記はされていませんでしたが、実質的に工事部門の最高責任者として、長期間にわたってC社の工事部門の業務を執行してきました。そこで、C社は、Dさんの長年の執行役員の経験を活かして、執行役員のまま経管にして、建設業許可を取得することにしました。

このケースは、第2章で述べたパターン3のケースです。

(ア)申請会社の常勤の『執行役員』であること

(イ)『執行役員』としての5年以上の経験があること

(ウ)上記5年間、建設業をおこなっていたこと

C社は、取締役会設置会社であり、すでに「執行役員」という役職が組織図に明記されていたほか、担当業務が明確な業務分掌規程がありました。これによりDさんが管轄する部門が、建設業に関するすべての業務を担っていることが明確でした。また、取締役会によってDさんが建設業部門の執行役員に選任されていることがわかる取締役会議事録もありました。これらの書類により、Dさんは、「C社の常勤の執行役員であること(ア)」「執行役員として5年以上の経験があること(イ)」を証明できました。

弊所としては、上記(ア)(イ)の確認のほかに、「(ウ)その間(上記5年間)、建設業をおこなっていたこと」を証明する必要がありましたが、この点については、C社の工事請負契約書や注文書によって、証明を無事クリアすることができました。

これらの書類を持って、まずは、東京都に事前相談に臨みました。Dさんが実質的に経管としての権限と責任を負ってきたことを認めてもらうことができ、無事、事前審査を通過。その後、本申請を行うことにより、新規で建設業許可を取得するに至りました。

自社の既存人材を最大限有効活用し、許可の取得に成功した、まさに、建設業許可取得に困っている会社のモデルケースとなる事例です。

3.現経管の取締役退任に伴い令3条の使用人経験者を執行役員として後任経管にしたE社

E社の事例は、A社やC社の新規許可取得とは異なり、現経管の退任に伴う「経管変更」の事例です。さらに、「令3条の使用人」としての経験を活かし、執行役員を後任経管に就任させた極めて特殊なケースです。

E社は、長年大手ゼネコンの下請けとして事業を拡大してきた大臣許可業者でした。しかし、現経管である取締役Fさんが、病気療養のため急遽退任することになりました。建設業許可を維持するためには、Fさんの退任後も経管を置く必要がありますが、他の取締役は経管要件を満たしていないという事情がありました。

本書で詳細は割愛しましたが、経管の要件は「取締役としての5年以上の経験(イ)」のほか、「令3条の使用人としての5年以上の経験」でも満たすことができます(※「令3条の使用人」とは、支店長など、本社の取締役と同等の権限を持つ使用人です)。そのため、令3条の使用人としての5年以上の経験があるGさんを執行役員に選任し、後任の経管として、FさんからGさんへの経管変更手続きを行いました。

このケースは、令3条の使用人としての経験を、取締役経験の代替として活用した、パターン1の応用例と捉えることができます。

(ア)申請会社の常勤の『執行役員』であること

(イ)令3条の使用人』としての5年以上の経験があること

(ウ)上記5年間、建設業をおこなっていたこと

E社のような大臣許可の場合、「個別認定」という極めて厳格な審査を経る必要があります。弊所は、E社が取締役会設置会社であること、そしてGさんが令3条の使用人として5年以上にわたりE社に在籍していたことの裏付資料を整備しました。

そのうえで、「組織図」「業務分掌規程」「取締役会規定・執行役員規定」「取締役会議事録」によって、Gさんが、

・建設業部門の最高責任者として

・執行役員に選任され

・具体的な業務権限の委譲を受けていること

について、証明しFさんからGさんへの経管の変更を行うことに成功しました。

この事例は、「令3条の使用人」としての経験を最大限に活用し、個別認定という厳しい審査を経て経管変更を成功させた、後任者不足に悩む大臣許可業者にとって最も参考になる事例の1つです。

終わりに:建設業許可の維持・取得には、専門知識が必要

最後まで、お付き合いいただき、誠にありがとうございました。『執行役員を経営業務管理責任者にして、建設業許可を「維持」する!「取得」する!』の内容は、いかがでしたか?本書が、みなさんの今後の会社経営、建設業部門の発展に貢献することを願っております。

建設業許可を取得する際の、経営業務管理責任者の要件については、私たち専門家でも悩む場面が少なくありません。本書のテーマである「執行役員経管」は、「建設業法施行規則第7条1号イ(2)」に規定される「例外的な要件」に該当します。この規定は、従来の「取締役による経管(イの(1))」以外の役職者にも道を開くものですが、その分、解釈や運用が複雑になりがちです。

さらに、補佐者を置くことで経管要件を満たす規定などもあり、経管の要件は年々複雑化しています。

これらの規定によって「経管要件が緩和され、許可を取得しやすくなった」と考えるのは大きな誤解です。私の経験上、むしろ規定が細分化されることで経管要件を複雑化させ、実務をかえってわかりにくくしているのが現状です。

そのため、みなさんが、経管要件についてお困りになるのは当然です。わからないことを前提に、積極的に専門家の知見と申請実績を頼っていただくことを心からお勧めいたします。

第3章でご紹介した事例は、いずれも弊所が実際に申請に成功したケースをモデルにしています。「執行役員を経管にできる」という知識は、必ずや、みなさんの選択肢を広げ、建設業許可の取得・維持の可能性を大きく開く鍵となるはずです。

本書が、建設業者のみなさんの事業活動における「有意義な指針」となれば幸いです。

行政書士法人スマートサイド

代表 横内賢郎

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